過去の感染症でも、以下のように遷延する症状の報告がありました。

①1918年 世界で大流行したインフルエンザA(H1N1)、全世界2470-5000万人の死者が出たと報告され、20%で完全には回復しない症状

②2002年 SARS患者の後遺症について、SF-36という指標を用いた。12か月と5年目のフォローでもそれぞれ22%, 10%で身体状態は完全回復しなかった。

③2013年 鳥インフルエンザA(H7N9)の2年後フォローに関する研究では、SF-36の指標を用いて、2年目の身体/感情的ドメインは回復しない例が多く、QOLでは特にARDS(急性呼吸窮迫症候群)を発症した場合に悪化していた。

新型コロナウイルス後遺症の症状は?

1.各国よりさまざまな報告がされている

主にイタリア、フランス、日本)より報告があります。
本邦では、60日目では、倦怠感(53.1%)、呼吸困難感(43.4%)、関節痛(27.3%)、胸痛(21.7%)と多く、その他、咳嗽、嗅覚脱失、目や口の乾燥、鼻炎、眼球充血、味覚障害、頭痛、喀痰、食思不振、咽頭痛、めまい、筋肉痛、下痢など様々な症状が認められています。
120日目の段階で、呼吸困難感(11.1%), 嗅覚障害(9.7%), 倦怠感(9.5%), 咳嗽(6.3%), 味覚障害(1.6%)と残存する症状を認めた報告があります。特に、Brain Fog(ブレインフォグ)と呼ばれる、記銘力低下に類似した症状や、頭痛・不眠などの症状にながく曝されるケースも多く、精神面も含めた全人的な対応が求められています。中等度Ⅱ~重症化の患者さんに多いという報告でした。

2.なぜ症状は残ってしまうの?

今のところ以下の理由が考えられています。
⑴ SARS-COV2抗原の残存、ヘルペスウイルス(HHV, EBV等)の再活性化
  腸内マイクロバイオームの変化やそれらに伴う自己免疫の異常
⑵ サイトカインストームや、微小血管内皮障害
  血栓症による心臓や呼吸器などの臓器障害
⑶ 気管挿管下の人工呼吸器管理による筋力低下(サルコペニア)
⑷ 個室やICUでの隔離による不安やストレスなどの拘禁反応
⑸ COVID-19による直接的な障害(味覚障害や嗅覚障害、脱毛など)

3.心臓・血管への負担が大きい!

COVID-19の約20%で心臓の合併症が認められたという報告があります。血栓症も含めて、血管内皮障害による異常はSARS-COV2によるウイルス。直接的な障害と考えるという報告が散見されています。

米国より合併症のないコロナ抗体とPCR検査で回復についての疫学研究です。学生54人(平均19歳、男性85%)に対して、心臓超音波/MRIを受けました。無症状16人(30%), 軽症36人(67%), 中等度は2人(4%)でした。この中で48人に心臓MRIが実施されました。そちらの結果は27例(56.3%)に異常所見があり、19例(39.5%)にすでに心膜への信号遅延増強と心嚢液貯留がみられました。

同様にドイツからの報告があります。診断後70日目の時点で、100人の患者さんに血液検査や心臓MRIを施行しました。71人(71%)で高感度トロポニンT(心筋が壊れたときに検出されるマーカー)で陽性を認めたと報告されました。

血栓症・心臓の障害はいち早くみつけ、治療が大切です。

血栓症・心疾患が、他の呼吸器ウイルス性感染症に比べて多いことが特徴的です。
早期発見のため、心臓エコー検査やCT検査を受けるようにしましょう。



4.呼吸器の障害は、障害される場所が実際には異なることが判ってきた

中国からの報告では、繊維化の進行というよりは無気肺などの肺胞容積の減少などが関与しているものと考えられていました。後に、2022年の日本より55例の呼吸機能検査を実施できた退院後3か月での報告では、25.5%は何らかの呼吸機能障害を有し、DLco(拡散能)・D-dimerが独立した因子であるとされ、晩期障害としてはCT検査や呼吸機能検査を用いた肺フォローと、血栓血管障害のマーカーのフォローが再注目された。なお、%DLco値は時間経過とともに緩徐に改善していく傾向にあったと報告されました。重症度にかかわらず、後遺症が起こる原因がこの新型コロナウイルス感染にはあるということだと思います。

5.具体的な治療法は?

2021年11月では、有効な治療法はなく、対症療法が中心でした。
2022年11月では、重症化マーカー(肺障害や血栓血管障害)をフォローしつつ、可能であれば抗体検査などにより免疫機能を測りワクチン接種を促すことで再感染から防御すること。早期からのリハビリテーションをおこない、細菌感染などの合併症を防ぐこと。また診療科目の横断的な身体的・精神的な治療を行うことが重要と定められました。Long COVIDの患者さんには、日常生活レベルを著しく低下され、日常の50%以上を自宅で休息している方も存在します。オンライン診療・往診(訪問診療)などの医療体制を整えることが重要とされます。

さまざまな治療法が明らかになってきている

「疲れることをしない、倦怠感が増すことをしない」と繰り返し伝えることが大事です。

上咽頭擦過療法は、Long COVIDの改善が報告されています(保険診療内)。高圧酸素療法は、酸素カプセル(整骨院)でも効果を感じる患者がいます。一定の臨床効果は期待されています(未実証です)。

漢方を含めた内科的な対症療法が今後も中心に考えます。ゆっくりリハビリテーションを行うことがスタンダードと位置付けられています。

ワクチン接種後にLong COVIDのような症状を呈するケースも認めます。新型コロナワクチンによる副反応の遷延なのか、Long COVIDであるか確実に鑑別できない場合があります。Long COVIDの治療が奏功することが多いため、治療法には難渋しないのですが。但し原因がSARS-COV-2の微小なウイルス抗原の残存であることもあります。抗ウイルス薬や抗体療法が教科書的な治療法となるであろう。

感染症・免疫学的な視点から、適切な治療を行うことが大切と考えます。

2023年2月10日更新